効かせるか、効かせないか

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筋力トレーニングを行なう時、“効く”とか”効かせる”という言葉をよく聞きます。定義はアイマイですが、この言葉には2つの使い方があるように思います。

  1. あるトレーニング種目を行った結果、「目的の筋肉が使われた」「疲労した」「焼け付くような痛みがあった」
    この場合は、エクササイズを行った結果として“効いた”という表現が適切そうです。
  2. あるトレーニング種目を行う時に、「目的の筋肉を意図的に強く使用して疲労させる」
    この場合は、“効かせる”と表現することが多いです。

後者はボディビルディングのトレーニングで使われるテクニックのひとつで、「mind-muscle connection(心と筋肉の結びつき)」とも呼ばれています。重量を持ち上げることよりも、筋肉の動きに意識と重点を置きます。例えば、ダンベルカールをするときに「重量は二の次で、とにかく上腕二頭筋を意識して使う。」といったことが当てはまります。

今回は筋力トレーニングにおける、“効かせる”について考えていこうと思います。

特定の筋肉を“効かせる”ことはできるか?

身体づくりのために筋力トレーニングを普段から行う方なら実感があるかもしれませんが、アイソレーション種目だけでなく、コンパウンド種目であったとしても、特定の筋肉に意識を置き、重点的に使うことができます。例えば、使うのが難しいと言われる背中の種目「ワンハンドロウ」や「ラットプルダウン」であっても、上腕二頭筋にほぼ力を入れずに広背筋に集中して使うことが可能です。

しかし、コンパウンド種目では重量が増えてくると”効かせる”のは難しくなるかもしれません。

筋力トレーニングの経験がある人を対象にした研究では、最大挙上重量の60%の重さを使ってベンチプレスを行った時、大胸筋と上腕三頭筋のどちらかに絞って使い分けられたことが確認されています[1]。しかし、重量を80%まで上げると、この使い分けができなくなったことが見られています[1]。今のところ最大挙上重量に対する60%〜80%のどこかで、“効かせ”られなくなるポイントがあると考えられています。

“効かせる”ことのメリットとデメリット

意識的に特定の筋を動かそうとすることで、本当にその筋が強く働くことが見られています。強く働いた筋肉が太くなったという研究もいくつかあるようです[2,3]。そのため、ある筋肉に限定して強くしたり大きくしたりしたい場合で、軽めの重量を中心に使う時、“効かせる”トレーニングは有効である可能性があります。

その一方、”効かせよう”とすると挙上・使用重量が落ちてしまうことは想像できると思います。パワーリフティングなどのように、コンパウンド種目での挙上重量を徹底的に増やしていく場合では、“効かせる”のは不利に働きそうです。
また、立ち幅跳びなどのような動作を行う時、身体の一部だけに意識を向けることは、身体の外に意識を向けた場合よりも、パフォーマンスを悪くすることが見られています[4,5]。したがって、筋力トレーニングで挙げられる重さを求める時、スポーツ動作を行う時などでは、特定の筋肉や身体の一部に意識を向けるのは好ましくない可能性があります。

ただ、ここまでご紹介したメリットとデメリットが、トレーニング上級者やエリートレベルの競技者にもそのまま当てはまるのかはよく分かっていません。

“効かせる”のが必要な時とは

効かせることが本当に必要なのかどうかは、筋力トレーニングの目的によって変わってきそうです。

  • コンパウンド種目で、”効かせよう”とすると、重さが扱えなくなるかもしれません。重たい重量を扱うのを目標とする場合は、理にかなっていません。
  • 広背筋、三角筋のように、特定の筋肉をうまく使える感覚がない時は、“効かせる”練習が重要になる場合もあります。
  • アイソレーション種目を行う時では、”効かせる”ことが効果的かもしれません。

基本的には、スポーツ競技のための補強や一般的な体形改善や健康増進が目的で筋力トレーニングをする場合、効かせる”必要はなさそうです。正しいフォームの習得・テクニックの習熟がより重要です。

冒頭で述べたように、mind-muscle connectionは1つのテクニックです。トレーニングの目的によっては、このテクニックの習得に時間を費やすのは弊害になる場合もあります。必要性に応じて、”効かせる”テクニックを使っていければ良さそうです。

Atlas Motohashi

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参考文献

  1. CALATAYUD, Joaquin, et al. Importance of mind-muscle connection during progressive resistance training. European journal of applied physiology, 2015, 1-7. [リンク]
  2. WAKAHARA, Taku, et al. Association between regional differences in muscle activation in one session of resistance exercise and in muscle hypertrophy after resistance training. European journal of applied physiology, 2012, 112.4: 1569-1576. [リンク]
  3. WAKAHARA, Taku, et al. Nonuniform muscle hypertrophy: its relation to muscle activation in training session. Medicine and science in sports and exercise, 2013, 45.11: 2158-2165. [リンク]
  4. PORTER, Jared M., et al. Standing long-jump performance is enhanced when using an external focus of attention. The Journal of Strength & Conditioning Research, 2010, 24.7: 1746-1750. [リンク]
  5. WU, Will FW; PORTER, Jared M.; BROWN, Lee E. Effect of attentional focus strategies on peak force and performance in the standing long jump. The Journal of Strength & Conditioning Research, 2012, 26.5: 1226-1231. [リンク]

 

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