低炭水化物ダイエットの再考

お肉

「低炭水化物」「糖質制限」という言葉を見かけない日がないくらい、多くの人がこのダイエット法を取り入れています。その目的はさまざまです。

  • 減量を効果的に行う
  • 健康の促進(血液検査の項目をよくするなど)
  • スポーツ競技のため

これらはほんの一例にしか過ぎませんが、さまざまな目的に対して利用される、流行のダイエット法と言っていいと思います。
今回は、低炭水化物ダイエットが本当にこうした目標に対して効果的なのかを検証していきましょう。

低炭水化物ダイエットとは

一般的な炭水化物の推奨量

ご飯やパンやその他穀物に多く含まれる身体のエネルギー源となる栄養素です。炭水化物以外にたんぱく質(肉・魚・乳製品などに含まれる)と脂肪(バター・油脂・アボカドなどに含まれる)と合わせて三大栄養素と呼ばれます。
国や機関によって変わりますが、通常1日の総摂取カロリーのうち45%~65%を炭水化物で摂るように推奨されています。

低炭水化物の定義

「低炭水化物」とは、どれくらいの量を指すのでしょう?

研究の世界では、1日の炭水化物の摂取量が200g以下、または摂取カロリーの20~40%までしか摂らない食事を低炭水化物ダイエットと呼んでいます。

炭水化物の摂取量を20g~50g以下、または摂取カロリーの0-20%まで厳しく制限する場合はケトジェニックダイエットと分類されます[1, 2]。

表:低炭水化物ダイエットの分類

1日の炭水化物の摂取量を20g以下に抑えるようにとススメられている「アトキンスダイエット」は、ケトジェニックダイエットにあたります。また、総摂取カロリーの40%を炭水化物で摂るようにとススメられている「ゾーンダイエット」は、低炭水化物ダイエットに分類されます。

世間一般的には、ご飯、パン、パスタなどの主食や、野菜に含まれる炭水化物さえも制限する苦しいダイエット法だと認識されているようです。

低炭水化物の減量メカニズムのウソ

低炭水化物ダイエットで減量効果が出るのは、次のようなメカニズムによると言われています。

  1. 炭水化物を減らすことで、体脂肪を溜め込むホルモンの量が少なくなり、体脂肪を分解するホルモンの量が多くなる
  2. 体脂肪を多く使えるようになることから、減量しやすくなる

しかし、このメカニズムには多くの誤りが指摘されています。これについてはAthleteBody.jpのこちらの記事が参考になります。

低炭水化物ダイエットで効果的に減量できる?

低炭水化物ダイエットを短期間行うことで、通常のダイエット法よりも体重が減ったことが見られる文献もあります[3]。しかし、低炭水化物ダイエットが効果を発揮しているように見えるのは、炭水化物を摂らなかったからではなく、たんぱく質をたくさん摂ったことによるものと言われています。

たんぱく質を摂ると減量がしやすい

たんぱく質を多く摂ると、減量するのに有利な効果を発揮することが見られています[4]。いくつかご紹介していきましょう。

三大栄養素には、消化や吸収などをする過程で使われてしまうカロリーがあります。このエネルギーの大きさは栄養素ごとに違います。

  • たんぱく質:20%~35%
  • 脂肪:0〜2%
  • 炭水化物:6〜8%

たんぱく質では、そのエネルギーが大きいことが分かります。つまり、たんぱく質からカロリーをたくさん摂っても、「身」にはなりにくいと言えます。

これ以外にも、たんぱく質を多く摂ることで次の効果が見られます。

  • 運動以外での身体活動で消費するエネルギー(NEAT)が増える
  • 食欲が抑えられ、食事量が少なくなる

たんぱく質を多く摂ると太りづらくなる・減量しやすくなるということですね。

こちらも参照!
摂取カロリーと消費カロリー:食べる内容が消費カロリーにも影響を及ぼします!

たんぱく質の量が同じなら、ダイエットの効果は変わらない

摂取カロリーとたんぱく質量が同じであれば、低炭水化物ダイエットと通常のダイエット法とで、体重と体脂肪量の減り方には、差は出なかったことが見られています[5]。

また、炭水化物の量が極端に少ないケトジェニックダイエットであっても、低炭水化物ダイエットより優れているわけではなさそうです[6]。

つまり、摂取カロリーとたんぱく質の量が同じであれば、炭水化物を多く摂ろうが少なく摂ろうが、減量の効果には差が出ないと言えそうです。

低炭水化物であれば、いくら食べても太らない?

「炭水化物を摂らなければ、何をどれだけ食べても太らない」というのも間違いです。

たんぱく質は他の三大栄養素と比較すると、過食しても体脂肪が増えづらいことが見られていますが、それでも体重増加が見られます[7]。たんぱく質だから「絶対に太らない」とは言えません。

脂肪の場合も、消費する以上にカロリーを摂れば太らないというのは考えにくいです。

低炭水化物ダイエットは食欲を抑える?

低炭水化物ダイエットでは、たんぱく質を多く摂取することで食欲が抑えられると考えられています。
また、ケトジェニックダイエットではでも食欲が抑えられ、摂取カロリーが自然と少なくなるといったことが見られています。ただ、その要因はよくわかっていません。食欲を抑えることには多くの要因が考えられ、そのメカニズムは複雑です。

どんなメカニズムであるにせよ、食欲を抑えられるかもしれないということは、食欲の強い人にとっては役に立つかもしれません。

少なくとも、たんぱく質を多く摂ることは試す価値があると言えそうです。

低炭水化物ダイエットの効果には個人差が出るかもしれない

炭水化物と脂肪を摂る量が、減量の効果に全く影響しないと言えません。体質によっては低炭水化物ダイエットのほうが好ましいことも考えられています。

インスリンの効きが悪く血糖値の下がりにくい「インスリン抵抗性」を持つ人は、低炭水化物ダイエットをすることで減量の効果が上がるかもしれません[8]。

研究では、インスリン抵抗性のない女性が16週間の減量をしたとき、高炭水化物ダイエットのほうが低炭水化物ダイエットよりも体脂肪が減らせたことが見られています。

炭水化物ダイエット 図1

ところが、インスリン抵抗性を持つ人の場合、低炭水化物ダイエットのほうが体脂肪を多く減らせていたのです。

低炭水化物ダイエット 図2

人によっては、低炭水化物ダイエットをする方が効果が高いのかもしれません。

低炭水化物ダイエットは長く続けられる?

低炭水化物ダイエットを含め、全てのダイエット法は長続きしないことが多いようです。ダイエット法で食べられるものが自分の好みと違えば、減量することが苦しく感じ、諦めてしまうことなるのは十分に考えられます。食事の好みを考慮した上で、どういう食生活で体重を落としていくのかを決めたほうがよさそうです。

ただ、短期間だけ減量をする場合には、低炭水化物ダイエットの「食品の種類に制限がある」という特性が役に立つかもしれません。

食品数を限定すると、短期間での減量の成功率が高く、減量を諦める人が少なくなるかもしれないと考えられています[9]。また、低炭水化物ダイエットをはじめるとすぐに、身体から水分が減ることで体重がドカっと落ちます。この体重の変化が、モチベーションの向上につながるかもしれません。

低炭水化物ダイエットを短期間だけ行うのであれば、こうした点は利用できるかもしれません。

減量するにはどうやって食べるのが良い?

減量をするには、次のポイントを押さえることが重要です。

  1. カロリー収支をマイナスにする
  2. たんぱく質を十分に摂る
  3. 炭水化物と脂肪の量は、好みによって変えて良い
  4. 長く続けられること

これらの条件が押さえられていれば、減量の効果はたいして変わらないです。特に4番の長く続けられるということに焦点を当てて選んでみることがとても大切です。

*筋肉量をできるだけ維持しながら体重を落とす場合はもう少し考えることがあります。こちらの記事をご参照ください。

 低炭水化物ダイエットは健康に悪い?

低炭水化物ダイエットは身体に悪いという話を聞きますが、必ずしもそうではなさそうです。 研究では、低炭水化物ダイエットをしたことで、他の食事法と同じように健康診断の検査項目を改善したことが見られています[10]。

ただ、病気のときの栄養については医師の判断に従った方が良いかもしれません。低炭水化物ダイエットが必ずしも全ての人に対して安全というわけではないからです。

1型糖尿患者が炭水化物を制限をしたところ、ケトアシドーシスに陥ったとする報告があります[11]。また、脂肪(ココナッツオイル)の摂りすぎで血液検査の項目が悪化したケースが報告されています[12]。

低炭水化物ダイエットでは脂肪を多く摂る傾向があるため、定期的に健康診断をした方が望ましいです。

低炭水化物ダイエットと競技パフォーマンス

競技選手の場合、栄養状態が競技成績や練習でのパフォーマンスに影響を与えます。どう影響を及ぼすのかを見ていきましょう。

持久系競技と低炭水化物ダイエット

ケトジェニックダイエットを長く行なっているトライアスロンの競技者では、脂肪を主なエネルギー源として使うことが見られています[13]。このため、食事法を変えることで、身体は脂肪やその他の物質をエネルギーとして効率よく利用できるようになると言えそうです。

ただ、これが競技成績の向上に結びつくのかは別の問題です。

マラソンなども含めた持久系競技では、ずっと低い強度で運動を続けているわけではありません。レースでは、「スパート」や「坂道」など、高い強度の運動を何度も行うことが考えられます。このとき、脂肪よりも炭水化物をエネルギーとしてうまく使える方が、パワーの発揮に有利だと考えられています。

こうした競技の特性を考え、「低炭水化物ダイエットによって、炭水化物がうまく使えなくなり、持久系競技であっても不利になる可能性がある。」と指摘する研究者もいます。

低炭水化物ダイエットでパフォーマンスが悪化したケースや[14]、反対に良くなった人がいたことも報告されていますので、個人差や競技特性や戦術などのさまざまな条件を考えて、低炭水化物を取り入れる方が良さそうです。

筋力・パワー系競技と低炭水化物ダイエット

筋力やパワーを必要とする運動について見ていきましょう。

競技や状況によって、低炭水化物ダイエットが不利に働く可能性がありそうです。エリートレベルの体操選手が低炭水化物ダイエットを30日間行っても大きな変化が見られませんでした[15]。その一方で、2日間炭水化物を制限した結果、スクワットの反復回数が減ったことが見られています[16]。また、「低炭水化物・高脂肪ダイエット」を続け、身体が脂肪をエネルギーとして使うことに慣れると、発揮されるパワーが低くなることが見られています[17]。

こうしたことを踏まえて、筋力やパワーを使う競技においては、低炭水化物ダイエットを取り入れることに否定的な見方をする人が多いです。

運動競技者は個人差や運動に求められる特性を考慮した上で、低炭水化物ダイエットの導入を判断したほうが無難そうですね。

まとめ

今回のポイント

  1. カロリー収支をマイナスにし、たんぱく質の摂取量を増やすのがカギです
  2. 炭水化物・脂質をどう摂っても、減量の効果は大して変わらないです
  3. 人によっては、低炭水化物ダイエットが適していることもあります
  4. 食事の好みを考慮した方が、減量を続けやすいです
  5. 新しい食事法を行うときは、定期的な健康診断をしましょう
  6. 競技者の場合は競技特性、個人差などを十分考慮して食事法を決定しましょう

食べ方や生活は千差万別で良いと思います。皆さまの目的や好みなどを考慮した上で、気持ちよく続けられる食事方法を選びましょう!

参考文献

  1. Frigolet, M-E., V-E. Ramos Barragán, and Martha Tamez Gonzalez. “Low-carbohydrate diets: a matter of love or hate.” Annals of Nutrition and Metabolism 58.4 (2011): 320-334. [link]
  2. Westman, Eric C., et al. “Low-carbohydrate nutrition and metabolism.” The American journal of clinical nutrition 86.2 (2007): 276-284. [link]
  3. Hession, M., et al. “Systematic review of randomized controlled trials of low‐carbohydrate vs. low‐fat/low‐calorie diets in the management of obesity and its comorbidities.” Obesity reviews 10.1 (2009): 36-50. [link]
  4. Halton, Thomas L., and Frank B. Hu. “The effects of high protein diets on thermogenesis, satiety and weight loss: a critical review.” Journal of the American College of Nutrition 23.5 (2004): 373-385. [link]
  5. Segal‐Isaacson, C. J., et al. “A Randomized Trial Comparing Low‐Fat and Low‐Carbohydrate Diets Matched for Energy and Protein.” Obesity research12.S11 (2004): 130S-140S. [link]
  6. Johnston, Carol S., et al. “Ketogenic low-carbohydrate diets have no metabolic advantage over nonketogenic low-carbohydrate diets.” The American journal of clinical nutrition 83.5 (2006): 1055-1061. [link]
  7. Webb, P., and J. F. Annis. “Adaptation to overeating in lean and overweight men and women.” Human nutrition. Clinical nutrition 37.2 (1983): 117-131. [link]
  8. Cornier, Marc‐Andre, et al. “Insulin sensitivity determines the effectiveness of dietary macronutrient composition on weight loss in obese women.” Obesity research 13.4 (2005): 703-709. [link]
  9. Purcell, Katrina, et al. “The effect of rate of weight loss on long-term weight management: a randomised controlled trial.” The Lancet Diabetes & Endocrinology 2.12 (2014): 954-962. [link]
  10. Hu, Tian, et al. “Effects of low-carbohydrate diets versus low-fat diets on metabolic risk factors: a meta-analysis of randomized controlled clinical trials.”American journal of epidemiology 176.suppl 7 (2012): S44-S54. [link]
  11. 福島徹, 濱崎暁洋, 浅井加奈枝, 佐々真弓, 渋江公尊, 菅野美和子, 幣憲一郎, 長嶋一昭, 稲垣暢也 低炭水化物食開始に伴う急速なインスリン減量によりケトアシドーシスを発症した1型糖尿病の1例 日本糖尿病学会 『糖尿病』Vol.56 (2013) No.9 p.653-659 [link]
  12. Singh, Amita, Vanessa Milne, and James Underberg. “Rise in Serum Lipids After Dietary Incorporation of Coconut Fats.” Journal of Clinical Lipidology 7.3 (2013): 267. [link]
  13. Maresh, Carl M., et al. “Metabolic characteristics of keto-adapted ultra-endurance runners.” (2015). [link]
  14. Zajac, Adam, et al. “The effects of a ketogenic diet on exercise metabolism and physical performance in off-road cyclists.” Nutrients 6.7 (2014): 2493-2508. [link]
  15. Paoli, Antonio, et al. “Ketogenic diet does not affect strength performance in elite artistic gymnasts.” Journal of the International Society of Sports Nutrition9.1 (2012): 1. [link]
  16. LEVERITT, MICHAEL, and PETER J. ABERNETHY. “Effects of Carbohydrate Restriction on Strength Performance.” The Journal of Strength & Conditioning Research 13.1 (1999): 52-57. [link]
  17. Burke, Louise M. “Re-Examining High-Fat Diets for Sports Performance: Did We Call the ‘Nail in the Coffin’Too Soon?.” Sports Medicine 45.1 (2015): 33-49. [link]

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