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フィットネス指導における姿勢改善を考える

text neck

*この記事はフィットネス指導者向けです。専門用語が多く出てきますので、予めご了承くださいm(_ _)m

フィットネス指導では、姿勢や動作をチェックした結果をもとにトレーニングプログラムを提供することがあります。こうしたプログラムは、「姿勢を良くする」と謳われます。このようなプログラムは論理的に見えるため、一般的に認知・普及されやすいです。ただ、科学的には効果がはっきり分かっていません。

「姿勢を改善するトレーニング」について、私は次の3つを疑問に感じています。

  1. 悪い姿勢は存在するのか?
  2. 姿勢チェックは正確に行えるのか?
  3. フィットネス指導によって姿勢改善はできるのか?

今回はフィットネス指導における「姿勢改善」について、疑問点をひとつずつ検証し、有効性を解き明かしていきましょう。

1. 悪い姿勢は存在するのか?

フィットネス指導では、「悪い姿勢」は次の2つの視点から語られます。

  • 見た目
  • 痛みの原因として

「悪い姿勢」とはどのようなものなのでしょう?そして、それは本当に存在するのでしょうか?

「理想的な姿勢」と「悪い姿勢」

フィットネスで「姿勢」という言葉を用いるときは、ほとんどの場合で静止時の姿勢を指します。静止時の姿勢には、次の3つが挙げられます。

  1. 立位姿勢
  2. 座る姿勢
  3. 寝る姿勢

このうち、フィットネス指導で評価されるのは立位姿勢に限られることが多いです。

立位姿勢の理想形として、Kendall氏の基準が用いられます。
姿勢を矢状面で観察したときに、身体重心線が耳の前ー肩関節(肩峰)ー胸郭と腹部の中央ー大転子ー膝関節ー足の外踝の前方を通っていて、脊柱には適度な湾曲を持つことが「理想的な姿勢」とされます。

Posture Types

左のAの姿勢が理想だとされます。

前額面での左右対称性も評価されます。たとえば、次のようなことが挙げられます。

  • 右肩が左肩よりも高い
  • 骨盤は左のほうが高い

水平面でのズレも評価されます。たとえば、次のようなことが挙げられます。

  • 左つま先が右よりも外側を向いている
  • 胸郭が左側を向いている

このように「理想的な姿勢」は、一定の基準を用いていることがわかります。

本来であれば、「理想的な姿勢」には「正常である範囲」があります。つま先がまっすぐ前を向いていなかったとしても、その範囲内である場合には問題がないはずです。

しかし、フィットネス指導においては、「理想的な姿勢」の範囲が極端に狭く、そこから少しでもズレたものを「悪い姿勢」と判断し、改善する対象とされてしうことが多いです。

「理想的な姿勢」と「悪い姿勢」とでバッサリと分けてしまうことは、決していいことではありません。その理由をいくつか挙げていきましょう。

骨の形状:個人のバリエーション

根本的な問題として、私たちはそれぞれ違った特徴を身体に持っています。それは骨の形状についても同じことが言えます。

ヒトの骨のバリエーションを写真で見てみましょう。(写真はこちらから引用

pelvic bones

寛骨臼窩の方向が違う。

pelvic bones

骨盤の形状の違い。寛骨臼窩の方向も違います。

Shoulder blades

肩峰の大きさが違います。

Femurs

大腿骨のネジレ角が違う。

このように、個人によって骨にバリエーションがあることは一目瞭然だと思います。さらに同じ人であっても、左右で形が違うことも十分考えられます。そのため、「完璧なまっすぐ」「左右にズレがない」といった極端な分類で姿勢のよし悪しを決めるのは、無理があると言えそうです。

「悪い姿勢」が必ずしも痛みの原因ではない

「悪い姿勢」は、関節の一部に負担が掛かったり、偏って筋肉を使ったりするため、痛みや不調を引き起こすと言われることがあります。たとえば、次のような話を聞いたことはありませんか?

  • 首に痛みがあるのはストレートネックだから
  • 腰痛があるのは、骨盤がゆがんでいるから
  • 肩が痛いのは、前肩だから

このような判断は、他の複雑な要素を全て無視しているため、短絡的であるかもしれません。これについて詳しく見ていきましょう。

まず、悪い姿勢が痛みを引き起こすことはあります。次の例を見てみてください。

  • ソファに腰を丸めたまま長時間座ってしまい、立ち上がったら腰が痛くなった
  • 横になり、ほおづえをしたまま長時間過ごす。すると、首が寝違えたように痛くなった
  • 背中を丸めたままデッドリフトをした。すると、腰にビキッと衝撃が走った

姿勢によって特定の組織(筋肉や軟部組織など)に負荷が掛かり、損傷が起こることで痛みにつながることは十分考えられます。

一方で、「悪い姿勢」と慢性的な痛みとの関連性は少しアイマイです。いくつかの研究では関連性が見られるものの(コレ)、多くの場合で因果関係についてはっきり見られていません。

一部だけ例を見ていきましょう。

  1. 胸椎や頸椎のアライメントと痛みについて、関連性が見られない(コレコレ
  2. 腰椎の湾曲の具合と脊柱の痛みについて、関連性が見られない(コレ
  3. 腰椎前弯・骨盤の前・後傾・脚長差と腰痛について、関連性が見られない(コレ
  4. 座位姿勢と首や肩の痛みについて、関連性が見られない(コレ

このように、「悪い姿勢」が痛み(特に慢性的な痛み)の原因となっているかどうかは、その時の状況などによって判断が変わってきます。痛みや不調があるからといって、姿勢だけに理由を求めようとするのは短絡的である可能性があります。

痛みのメカニズムは複雑

これまでご紹介してきたような、痛みや不調の原因を「姿勢」や「構造」や「動作」に求める理論を、postural-structural-biomechanical (PSB) modelと呼びます。

しかし、特に慢性的な痛みに関しては、PSBモデルだけでは説明がうまくつかないことが多いです。
PSBモデルでは痛みに対する説明が不十分であることを、腰痛を例にして書かれた文献がありますのでご参照ください(コレ)。

次のようなさまざまな要因が、痛みに影響を及ぼすと言われています。

  • 遺伝
  • 生化学的な物質(神経伝達物質など)
  • 環境(大切な試合時など)
  • 過去の経験(過去のトラウマなど)
  • 心理的要因(例:不安・恐怖など)
  • 社会的要因(例:文化、地位や収入、生活水準など)
  • などなど

このように、痛みの原因を「生物的」「心理的」「社会学的」な側面に求める理論を、Bio-Psycho-Social (BPS)Modelと呼びます。

現実にはどちらか一方の理論だけが正しいというわけではなく、この2つの理論が複雑に絡んで、痛みや不調という結果を生み出していると考えられています。

上位交差性症候群

上位交叉性症候群:これは本当に「悪い姿勢」??

以上のことから、「姿勢」というひとつの要素を切り出して、痛みや不調の原因を探ると的外れに終わる可能性が高いです。こうした難しい判断は、フィットネス指導者の専門領域内に収まるとは到底思えません。治療の専門家にお任せするのがいいと考えます。

フィットネス指導において、「悪い姿勢」の判断は難しい

これまでご紹介したように、「悪い姿勢」がどのようなもなのかをフィットネス指導者が判断するのは難しそうです。

少なくとも、「理想的な姿勢」と「悪い姿勢」と単純に2つに分けるのは短絡的だと言えそうです。

2. 姿勢チェックは正確に行えるのか?

フィットネス指導では、「姿勢」や「動作」のチェックがトレーニング内容を決めるための指標として使われます。ただ、このような評価を用いて姿勢を正確に把握するのには限界がありそうです。というのも、これらの評価法そのものにいくつか問題点があるからです。

フィットネス指導で用いられる評価法には、主に次のものが挙げられます。

  1. 目で見る評価(視診)
  2. 身体を触る評価(触診)

それぞれの評価法の問題点を見ていきましょう。

視診の問題点

視診だけで姿勢を評価するのには限界がありそうです。

たとえば、頸椎や腰椎の湾曲の視診では、検査をする人によって評価が大きくズレてしまう可能性がみられています(コレ)。あるフィットネス指導者が「良い姿勢」と判断しても、別のトレーナーは「悪い姿勢」と判断してしまうことも考えられる、ということです。

また、先ほどご紹介したように、骨の形状には個人差があります。見た目で大まかなパーツの位置関係が把握できたとしても、実際にその骨の形やアライメントがどうなっているのかまでは正確に把握できません。

下の動画(英語)では、これまで述べてきたことを英語で説明しています。
英語が難しい場合は、冒頭で紹介される女性の、実際の外見と「レントゲン写真」との比較を見てみてください。

果たしてフィットネス指導者が、このような身体の状態や解剖学上の個人差を、特殊な装置や設備なしで正確に評価できるのでしょうか?

触診

身体を触る姿勢検査法(触診)も、必ずしも正確とは言えません。

骨盤の前・後傾を、骨盤の指標(ASIS:上前腸骨棘とPSIS:上後腸骨棘)を触ることで確認する方法があります。しかし、骨盤の形態には個人差があり、ASISとPSISの位置関係には大きな差が見られます。そのため、ふたつの指標を触ることでは骨盤の前・後傾を把握するのは難しいかもしれないと考えられています(コレ)。

また、PSISを触ろうとしても、正確な位置を把握するのが難しいことも見られています(コレ)。

これまでご紹介したように、フィットネス指導者が視診や触診で、姿勢を正確に把握するのは非常に困難であると考えられます。

3. フィットネス指導で姿勢改善はできるのか?

姿勢改善を目的とした時、筋力トレーニングとストレッチのプログラムが推奨されることが多いです。筋力トレーニングとストレッチで本当に姿勢改善は可能なのかを検証していきましょう。

ストレッチだけのプログラム

ストレッチだけで姿勢改善は可能なのでしょうか。

まず、ハムストリングスに対するストレッチの効果を見てみましょう。

ハムストリングス

ハムストリングスは、大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋の総称で、大腿二頭筋短頭を除き、骨盤の坐骨結節に起始を持ちます。

Stretching

ストレートレッグレイズ

この筋肉のつき方から、ハムストリングスが硬ければ、立位において骨盤を後傾位に引っ張るとされます。骨盤後傾位は、ハムストリングスをストレッチしてほぐすことで改善できるとされます。

しかし、4週間に渡るハムストリングスへのストレッチの効果を調べた研究では、骨盤の前・後傾の程度に変化は見られませんでした。この期間中、ストレートレッグレイズ(SLR)での可動域は広がっていますので、ストレッチそのものの効果がなかったわけではなさそうです。

次に、肩甲骨の位置に関する研究を見ていきましょう。この研究では、胸のストレッチを1日に2回・14日間実施したことで、前肩になってしまっている人の肩甲骨の位置に変化が見られました。

ストレッチと骨の位置や全身の姿勢の変化を見た研究は少ないです。そのため、

  • 部位によってストレッチの効果が違うのか
  • ストレッチのプログラム内容(種目・時間・頻度・期間など)によって効果が変わるのか

などは、今の段階で明確な判断はできなさそうです。今後の研究に注目したいところです。

ストレッチで筋肉や腱の構造が変わるのか?

そもそも、ストレッチでは筋肉や腱の構造を変えるのが難しいとする見解があります。

たとえば、『ストレッチをすることで筋節の数が増え、筋肉の長さが増える』という説があります。

muscle tissue

筋の構造:ストレッチで筋節数は増える?

これは動物実験において、筋肉をストレッチした位置で、関節をギブスで数週間固定したときに、筋節の数が増えたとする研究結果から来てます。この類の研究は、ヒトに対するストレッチの効果として置き換えることが難しいとされます。いかに理由を挙げていきます。

  1. 動物実験である。
  2. 筋節の数は増えたものの、筋節ひとつひとつの長さは減っていた。結果として筋肉の長さは同じであった。
  3. ギブスを外して日常生活に戻したところ、筋節の数は結局元に戻った。
  4. 数週間のギブスの固定によるストレッチで起きた変化なので、1回数分間のストレッチ(その後は日常生活)で同じ効果が見られるのかは不明。

実際にヒトに対する、フィットネスの現場で活用されるようなストレッチの研究では、動物実験で起きたような筋肉の構造の変化は今のところ確認できていません。

現在、ストレッチで関節可動域が増える効果は『痛みに対する閾値が高くなるから』とする説が有力です。言い換えると、『筋肉を同じだけ伸ばしても、痛みを感じづらくなる。だからもっと筋肉を伸ばせる。』ということです。詳しくはこちらのレビューをご参照ください。

筋力トレーニングとストレッチの組み合わせ

トレーニングプログラムに筋力トレーニングを加えることで、姿勢改善に対する効果は変わるのでしょうか?

競泳選手を対象とした6週間に渡る研究では、胸のストレッチと肩甲骨を内転させる筋力トレーニングを組み合わせたプログラムの実施によって、肩甲骨の位置に変化が見られました。

競泳選手を対象とした別の研究では、8週間に渡る筋力トレーニングとストレッチのプログラムによって、頸椎と肩甲骨のアライメントが変わったことが見られました。ただ、この研究では水泳の練習量が多い時期と重なっていたため、研究で行われたトレーニングプログラムがどの程度貢献したのかがはっきりしていません。

10週間に渡って行われた別の研究(RCT)では、骨アライメントや可動域を示す6つの項目のうち、5つで変化が見られています。ただ、トレーニングプログラムに参加していないグループも、6つの項目のうち4項目に改善が見られています。そのため、姿勢や動きに対する「気づき」だけでも、姿勢に変化が起きる可能性が考えられます。

このように、筋力トレーニングとストレッチを組み合わせることで、骨アライメントや姿勢が変わる可能性は否定できません。しかし、現時点では研究数が少ないく、骨アライメントが改善した研究であっても、変化をもたらした要因が特定されていません。そのため、「筋力トレーニングやストレッチが姿勢改善に対して効果的である。」、「姿勢改善のために筋力トレーニングを取り入れよう。」とまでは言えないようです(コレコレ)。

今後のさらなる研究が期待されます。

以上から、ストレッチのみ/ストレッチ+筋力トレーニングのトレーニングプログラムを取り入れることで姿勢改善ができる、とは言い切れなさそうです。

ここまでのまとめ

3つの疑問点をできるだけ客観的に見てきました。これまで述べてきたことから、おそらく以下のことが言えるのではないかと思います。

  • 個人差が大きいこと、そして姿勢が痛みと因果関係を持つとは限らないことから、「理想的な姿勢」と「悪い姿勢」を明確に定義づけることが難しい。
  • 仮に姿勢の定義づけができても、フィットネス指導者が現場で姿勢チェックを正確に行うことは難しい。
  • 筋力トレーニングとストレッチで姿勢改善ができるかどうかは、現段階では科学的根拠が十分ではない。今後の研究が待たれる。

姿勢改善を目的として姿勢検査やトレーニングプログラムを組むことについて、「有効である」とは断言できなさそうです。

「姿勢」に対する接し方

では、フィットネス指導者は「姿勢」に対してどう接すればいいのでしょう?

姿勢のよし悪しを安易に判断することは避ける

姿勢を「よい」「悪い」で捉えてしまうことには、心理面で弊害を与えてしまいます。「よい」とされる姿勢の概念を一方的に与えることで、それ以外の姿勢に対する恐怖や不安を植え付けてしまうことが考えられます。

また、先ほど述べたように、悪い姿勢がどんなものなのかをもう一度考える必要があるかもしれません。「悪い姿勢」と思い込んでるものが、単なる個性であることは十分考えられます。

「姿勢改善」を明確な根拠なく期待させない

たとえば、軟骨や骨が完全に変形している場合であれば「筋力トレーニングとストレッチで改善します。」とは言えないはずです。

フィットネス指導者が現場でクライアントの身体の中身を正確に把握することに限界があるため、実態がわからないまま「姿勢改善をします。」と触れ込むのは無責任なように感じます。

筋力トレーニングで負荷を掛けて身体が適応していった結果、姿勢に何らかの変化が出てくる可能性も否定できません。しかし、現在見られるエビデンスからは「姿勢改善のために、筋力トレーニングやストレッチのプログラムが効果的。」とは断言できなさそうです。

姿勢の個性を大切にし、その人ができることに焦点を当てる

姿勢はその人の個性と理解した上で、その個性を大切にし、その人ができることに焦点を当てます。

  • どのトレーニング種目ができるのか?
  • 反対にできない・難しい動作は何か?
  • 姿勢の個人差が持つリスクを把握する

こうしたことが大切だと言えそうです。

筋力トレーニングやストレッチや姿勢の技術自体の指導を継続していった結果として、できる種目や動作が増えていけば、新しいことに挑戦していけばいいのだと思います。

姿勢の個性に合わせたリスクを把握する

たとえば、極端なX脚の人がスクワット系の動作パターンを行う際、それに伴うヒザへのリスクを予想しておく必要があります。場合によっては、姿勢の個人差に対する安全なトレーニング種目の選択や、フォームの指導方法を変えていく必要があるかもしれません。

おわりに

以下に今回のポイントをまとめてみます。

今回のポイント

  • フィットネス指導者が、姿勢から痛みや不調を判断するのは難しいです。専門家に任せましょう。
  • 姿勢を正確にチェックすることも難しそうです。
  • 科学的根拠が十分でないため、筋力トレーニングとストレッチを合わせたプログラムで、姿勢改善が行えるとまでは、現時点で断言できなさそうです。
  • 姿勢は個性、技術、個人の選択と考えます。不必要で非現実的な理想を求めるよりも、姿勢に合わせた接し方をすることが大切かもしれません。

もし将来的に、姿勢改善に対してトレーニングプログラムが有効であるという科学的根拠が出てきたとしても、悪い姿勢の定義の明確化や姿勢のチェック方法など、いくつかクリアしなくてはいけない問題点があるように思えます。

この話題に関しては、新たな情報が入ってきたときに、内容を更新していこうと思います。

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