記事を皆にシェアしましょう!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Evernoteに保存Evernoteに保存

バランスボールでバランスは鍛えられる?

Balance Ball

バランスボールに乗って行う運動方法は、世界中のあちこちで見られます。不安定な接地面を用いて「バランスを鍛える」トレーニング方法とのことですが、このうたい文句にあまり疑問を持たずこの運動を積極的に指導する指導者も少なくないようです。極端な場合は、サーカスエクササイズという危険な方法にまで発展するケースもあります。

以下のビデオのようなトレーニングだと言えばイメージ出来るでしょうか。

この不安定なボールを用いたトレーニングでバランスは本当に鍛えられているのでしょうか?

バランスとは?

フィットネスやトレーニングの現場において、「バランス」という言葉はかなり曖昧に使われています。ランジでグラついたり、バランスディスクの上に片脚で立てなかったり…。殆どが感覚的に使われているように感じます。

一般的な定義としては「支持基底面の中に身体重心を収めること。」です。これを実現する為に、脳と身体はさまざまな戦略をとっています。視覚や三半規管、前庭器官、そして体性感覚や固有受容性感覚から中枢神経系へと送られる情報を基に、筋肉を用いて姿勢や動作を調整させている「フィードバックコントロール」がその一例です。

動作や競技に必要とされるバランスとは、身体を操作する為の1つのスキルです。

動きのない姿勢を保持することや、身体を動かして身体重心の位置が常に変わる中で、どう身体をコントロールするのか、といったことに当てはまります。

  • 支持基底面からずれた身体重心を基底面内にどう戻すか。
  • 足を踏み出して新たに支持基底面を作るか。
  • そのためにはどう身体を操作するのかなど

これらが一瞬のうちに脳で処理され、実行されます。さらに細かいメカニズムに興味のある人は是非専門書を読んでいただけると良いと思います。

不安定なバランスボールやディスクではどうやってバランスが鍛えられる?

グラグラする不安定な器具、バランスボールやバランスディスクなどを用いたトレーニングは、身体の何の機能・器官を、どうやって鍛えバランスを身に付けるというのでしょう?

指導現場においては、バランスボールやバランスディスクを用いることで「固有受容性感覚」(深部感覚)」が鍛えられるのだと言われることが多いです。そして、これが鍛えられることによって、バランス能力がよくなると言われています。固有受容性感覚とは、簡単に以下のような説明になります。正確には専門書をご参照下さい。

深部感覚は位置覚、運動覚、抵抗覚、重量覚により、体の各部分の位置、運動の状態、体に加わる抵抗、重量を感知する感覚である。深部知覚、深部覚、固有受容性感覚 proprioceptive sense、固有覚ともいわれる。これらの感覚の基礎として存在するのが関節、筋、腱の動きの感覚である。

Wikipediaより

つまり、身体や関節の位置、かかっている張力、筋肉の長さなどを把握する感覚を指します。これらを感知するセンサー(感覚器)から得られる情報を利用して筋肉(効果器)を用い身体を操作し、静的・動的な姿勢の安定性が保たれます。バランストレーニングでは、この固有受容性感覚を鍛えるとされています。しかし、本当に固有受容性感覚器は運動で鍛えられるのでしょうか?

本当に固有受容性感覚は鍛えられる?

今までの研究から、この固有受容性感覚の中でも、トレーニングによって何らかの適応を起こせるのが唯一可能であろうとされているのが、筋肉の中にある筋紡錘という、筋肉の長さとその変化の程度を感知している感覚器です。特に筋紡錘の鋭敏さだけが身体活動・トレーニングによって鍛錬され得るであろうと仮説が立てられています。

バランスボールなどに乗ると、筋紡錘は最大限に働いているのが確認されます。しかし、残念ながらバランストレーニングやその他の身体活動で筋紡錘を使うことで、その鋭敏さが改善するという明確な科学的根拠が存在しないというのが現状のようです[1]。つまり、「バランスボールやバランスディスクなどを用いると固有受容性感覚が鍛えられ、バランス能力が良くなる。」とは今のところ断言できないです。

また、日常生活やスポーツ競技で起こる予測不可能な突発的な外力と身体の姿勢や関節角度の変化や動作の乱れは、感覚器からの”フィードバックコントロール”にかかる時間よりも遥かに短い時間で起きます。したがって、仮に筋紡錘の鋭敏さが鍛えられるという科学的根拠が出てきたとしても、筋紡錘を利用した”フィードバックコントロール”では、この予測不可能な外力に身体が対処できなく、固有受容性感覚だけで身体のバランスをとるのは時間的に非常に難しいと考えられています[1]。

バランスボールに乗れる=バランスが鍛えられた?

バランスボールやディスクを用いた運動を繰り返すと、練習している動作は上手くなります。例えば、バランスボールでスクワットをしたり、片足で立ってみたり、ジャンプして乗ってみたりする動作は、練習をした分だけ上手くなります。

これは、その動作が上手にできるようになったというのが適切なようです。つまり、動作を学習したということす。身体活動量や筋力トレーニング経験の少ない方が、今までほとんど使われてこなかった筋肉をバランストレーニングで使った場合、筋肥大や筋持久力向上などの筋の適応が起きると考えられています。これが、不安定なサーフェスでの動作が出来るようになったら別の動作も良くなった一因である可能性も考えられています。実際に、不安定な器具を用いるトレーニングをすることで、単純な姿勢のコントロールや研究で課題とされた動作が向上することが見られています[2]。

ただ、バランスボールやバランスディスクなどでのトレーニングが課題としている動作、例えば日常動作や競技動作での「バランス」に対して意味を成すのかは疑問が残ります。最近発表された論文では、自分が練習した課題動作だけにパフォーマンスの向上が見られ、全く同じ動作でも違う器具を用いた種目では、パフォーマンスの向上があまり起きていなかったと報告されています[3]。用いる器具も含めて、バランストレーニングでは、練習したものに対して特異的に上手くなる可能性が高いということです。

このことから、バランストレーニングを一生懸命しても、必ずしも自分の求める動作が良くなるとは限らないことが考えられます。

その他に考慮したいこと

バランストレーニングを取り入れるのかを検討する場合は、さらに突っ込んで以下のことを考慮する必要があります。

1. 不安定なサーフェスを利用する必要性

前述のように、バランストレーニングは練習したものに対して特異的に良くなる可能性があります。バランスボール・ディスクのような「グラグラする」環境は、日常生活やスポーツ競技ではほぼないとも考えられ、不安定な器具をあえて使う必要性があるのかという疑問が出てきます。

2. オープンスキルかクローズドスキルか

実際の動作や競技に必要なバランスとは、突発的な予測不可能な外力による姿勢などの変化、例えばバスケットボールやサッカーのフィジカルコンタクト、サーフィンでの波などに対応できる力が多く含まれます。これをオープンスキルと言います。内容が決まった予測可能なタスク、例えばBOSUでの片足立ち、バランスボール乗りなど、クローズドスキルと呼ばれる練習だけでは効果が低いことが考えられます。

3. 危険性とメリット

バランスボールを用いた運動を行うことで得られるメリットと、危険性を天秤にかける必要があると考えます。得られる成果が多ければ、行う価値はありますが、危険を大きく伴うのであれば力を入れる必要はないかもしれません。

4. 時間的な制約

バランスボールに割く時間だけ、目的としている動作(例えば競技)をしっかり練習したほうがいい場合も多々あります

以上を踏まえた上で、本当にバランスボールやバランスディスクなどでのトレーニングを行うことで、目標としている動作にメリットがあるのかをもう一度よく検討したほうがいいかもしれません。

筋肉量アップ・挙上重量アップ・体形改善に対しては、バランスボールをトレーニングにはあまりメリットを感じません。もちろん、ボールに乗れるようにしたい、ボールを用いたスクワットを習得したいという直接的な目的があればその練習は必要です。また、トレーニング習慣のマンネリを防いで、トレーニングの継続につなげるというならば、その運動の採用を否定することはないです。ただし、どんな場合でもバランスボールを用いた運動をトレーニングのメイン種目とさせる必要はないかもしれません。

まとめ

バランスボールやバランスディスクなどを利用したトレーニングは、固有受容性感覚を鍛えることでバランス能力を養うと言われていますが、実際のところどんな身体活動でも、もちろんバランスボールやディスクを利用しても、固有受容性感覚が鍛えられるという明確な科学的根拠はないようです。したがって、不安定な接地面の器具を利用したとしても「固有受容性感覚を鍛えてバランス能力を良くする」ということが言えない可能性があります。

練習している運動、例えばバランスボール乗り、BOSU上でのスクワットなどが上手くなることはあります。その場合、単純にその動作の学習をしたということです。学習した動作が、本当に求めたい動きに活かされる可能性も、条件次第ではあり得ます。その場合は、運動の特異性や筋肥大などの筋肉の適応などがその条件に挙げられます。練習しているバランスボールやバランスディスクを用いた運動が、本来目的とした動きやバランスに対して意味のあるものかどうかについては、さまざまな要素を検討する必要があります。もしバランスボールやバランスディスクなどの運動を取り入れるとしても、冒頭の動画のようなサーカスエクササイズは危険です。

「動作が難しい」から「意味のある」「機能的:ファンクショナル」なトレーニングなわけではありません。きちんと理屈が分かった上で器具を利用していきたいものです。

Atlas Motohashi

参考文献

  1. Ashton-Miller JA, Wojtys EM, Huston LJ, Fry-Welch D.: Can proprioception really be improved by exercises?. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2001 May;9(3):128-36. [リンク]
  2. Yaggie JA, Campbell BM.: Effect of balance training on selected skill. J Strength Res, 2006, May 20(2): 422-8. [リンク]
  3. Giboin LS, Gruber M, Kramer A.: Task-specificity of balance training. Hum Mov Sci. 2015 Dec;44:22-31. [リンク]